はしがき
本書は終戦後から現在にいたるまでの間に、各方面の新聞や雑誌に投稿した碁に関する小文を
蒐集し、本年に入つて更に新らしきもの若干を書き加えて一冊子に纏めたもので、すべて碁を中
心にして書いたものであるから書名を「手談」と題したのです。いうまでもなく手談とは碁の別
名であります。
本書の内容は秩序的に纏まつたものでなく、碁の歴史もあれば、先輩の逸話もあり、碁と人生
碁と哲学、私の過去の思い出話もあれば、名士に関する碁の話、或は碁を打つについての心得、
碁界に対する私の希望や理想、或いは棋士の内しよ話、等々あらゆる面にわたって技術以外の碁
の世界、碁の趣味というものをそれとなく説いて、碁に遊ぶものは碁の世界のふんいきを味わって
頂きたいために急に発意したのであります。
私は幼少の頃より碁一筋に精進して碁技の方はどうにか、今日の地位まで築き上げてきました
が、その反面、碁の技術以外には何の智識も持ち合わせず取柄もないもので、もとより文学の素
養も文才もない私が、この随筆を発表することはおこがましき限りで、拙文をお目にかけること
は心中忸怩たるものがありますが、同好の方々にいくぶんでも技術以外に碁の世界を
覗いて、碁の普及の面に共に関心を持って頂きたいために、敢えて拙文を顧みずこの小書を刊行
すべく発意したのであります。
老子に「自知者明なり」とある如く決して自負して書いたものでないことを申し上げて、まえ
がきとした次第であります。
昭和三十一年九月
瀬越憲作
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